インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第57回 二枝 たかはる 氏

2017年3月、“光冷暖システム”でジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2017 最優秀レジリエンス賞(医療 ものづくり)を受賞した、二枝たかはる氏。氏に、システム開発に至るまで、事業への思いを伺いました。

Profile

57回 二枝 たかはる(ふたえだ たかはる)

Anny Group KFT株式会社 代表取締役
1959年福岡県生まれ。福岡大学付属大濠高等学校卒業。1988年ライフショップ“Annyのお気に入り”、2003年にストーンスパ“石の癒”を開業。オリジナル商品を主軸とした雑貨業や独自開発のストーンスパ、エアコンいらずの“光冷暖システム”など、ユーザーの生活に寄り添った商品開発を実施している。“光冷暖システム”は、2009年に特許を取得し、2014年地球温暖化防止活動 環境大臣賞の技術開発・製品化部門において九州の企業として初めて受賞、2017年にはジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2017 最優秀レジリエンス賞(医療 ものづくり)を受賞した。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2017年6月)のものです。

石への興味

私のビジネスは、“石”から始まりました。それには生まれた場所、福岡県志免町が関係していると思います。志免町は、日本唯一の国営鉱業所があり石炭生産によって栄えたところです。外国産の石炭が主流となり残念ながら今は閉山していますが、燃やしてもほとんど煙が出ない良質な石炭が採れた価値ある場所です。子ども時代は毎日ボタ山(石炭のカスを積み上げた場所)で遊んで小さな石炭を持って帰り、当時は薪を燃やしてお風呂を沸かしていましたから、そこに拾ってきた石炭も一緒に入れて燃やしていました。石炭は、石によって燃え方が違います。一つひとつ異なるエネルギーを持っていることを不思議に思いながら、石が燃えるのを見ている子どもでした。他にも、機械式時計に使われる石や磁石にも興味を惹かれました。人と違う着眼点や興味は、少年時代に育ったのだと思います。中学校の夏休みの宿題では、周りが昆虫採集を競い合う中、学年で一人だけ石の標本を提出し、先生に褒められて嬉しかったことを今でも良く覚えています。

石への興味は、商品開発に繋がっています。私には6人子どもがいるのですが、そのうちの2人がアトピー性皮膚炎を患っていました。夏に行ったイギリスで、次女がとても蒸し暑いのにタートルネックを着ていました。理由は、肩と首のアトピー性皮膚炎の症状がひどいから。当時、次女は剣道をしていて、稽古着や面が痛いだろうから休んで治療したらどうかと言うと、監督やコーチが私の知り合いで、休むと私に迷惑がかかるからと答えました。症状がひどくて悩んでいることを知らなかったことを申し訳なく思うと同時に、子が親を思う気持ちの大きさに心を打たれました。一刻も早く治してあげたいという気持ちで研究を進める中、温泉水を利用した商品に効果があることを発見します。あちこちの温泉水を試しましたが、温泉によって効果に違いがあり、地下にある石に溶け込む成分が違うことで人に与える効能も異なるため、“温泉水”ではなく“石”に着目しなければいけないことが分かりました。

逆境が自分を成長させた

私はこれまで、二つの辛い時期を乗り越えてきました。その経験があったからこそ大きく成長でき、今の自分や会社があると考えています。一つは大学時代のことです。私は京都産業大学に通っていましたが、祖父が始めた着物屋が苦しくなり、中退して実家に戻って手伝うことになりました。着物は定価がなく、信用で成り立っている商売です。地元ではある程度名の知れた着物屋でしたので、事業が傾いた時期は二枝の名前を使わずに商売していました。4年かけて事業を立て直し、自分の名前を取り戻しました。この4年間は、お客様と話すときの表情、第一声の大切さ、深いご縁の築き方を身につけられた時期でもありました。

もう一つは、ストーンスパ“石の癒”を拡大したときです。石鹸や化粧水で外面からのアトピー性皮膚炎の改善を目指し、多くの方に満足していただくことができました。さらに、石のエネルギーを借りて内面から良い状態にする方法はないかと考え、遠赤外線と岩盤浴に着目し“石の癒”を開設しました。他商品ではご満足いただけなかった方にも、この施設には喜んでいただくことができました。ご利用者からの後押しもあって、3年間で48店舗という急成長を遂げました。多くの方に体験していただくために、店舗数拡大を予定していました。ところが、施設に関する特許を取得していなかったため、岩盤浴ビジネスを真似した類似店舗がたくさん出店されてしまいました。その数3,000店舗。さらに、粗悪な岩盤浴を使ったサービスが横行し、メディアに「衛生面で不安がある」、「雑菌がある」などと取り上げられてしまいました。このダブルパンチで途端に客足が遠のき、前年対比2割の売り上げに。結局、3年間で出した利益をすべて使い果たしてしまいました。

継続して取り組む

辛い状況でも、“石の癒”1号店はお客様にご満足いただける施設を目指し、改装やテストを繰り返しました。改装しているうちに、低温で良い汗を出すための石の使い方が分かり、エアコンが入っているロビーよりも、石に囲まれた浴室はとても気持ちの良い涼しさを感じることに気づきました。そして、石は冷えると人間の体温を奪い、エアコンよりも涼しく感じることを発見したのです。このことがきっかけとなり、“石の癒”で培った技術から“光冷暖”という冷暖システムが誕生しました。

“光冷暖システム”は、壁と天井の表面に特殊セラミックコーティングを施し、光エネルギーによって体感温度をコントロールする室内環境システムです。専門家の方々は、「セラミックによって温めることは理解できるが、なぜ冷やすことができるのか分からない」と体験しにいらっしゃいます。壁や天井の温かいエネルギーをパネルの冷たい部分に移動させると、冷やすことができるという簡単なことなのです。「専門家でないからこその着眼点だ」と言われることも多いです。システムを体験できるモデルルームは、日本全国に100施設あります。東京大学や九州大学、福岡女子大学、九州工業大学などと共同研究を行ったり、自宅を実験施設にしてみたり、より進化した商品になるよう日々追求しています。

新たな出発

“光冷暖システム”を使うと、エアコンによる風を体に当てることなく、遠赤外線によって体感温度をコントロールすることができます。この技術は、2014年に地球温暖化防止活動 環境大臣賞の技術開発・製品化部門で受賞し、今年はジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)最優秀レジリエンス賞を受賞しました。昨年9月に、新国立競技場をデザインした建築家の隈研吾さんが“光冷暖システム”のショールームにご来訪くださいました。建築デザイナーの視点から「これは将来の常識ともなる冷暖技術だ」とお褒めの言葉をいただき、とても嬉しく思いました。このご縁で今、自社の本部ビルの設計、デザインをお願いしています。このビルは、国の重要文化財となった竪坑と共振共鳴できるような、弟分のような存在を目指しています。現在(2017年6月時点)は基本設計が終わり、秋に施工、2019年3月に完成する予定です。

人と地球に優しい本物の生活スタイルを提案し、雑貨や寝具、住宅、将来的には街づくりまで展開していきたい、と若い頃から夢見てきました。今少しずつその夢に近づいているように感じています。極端な話ですが、お客様に強引にお勧めしても後で喜ばれるような、こつこつと商品の良さを広げていくことが私たちAnnyグループのテーマです。“光冷暖本部ビル”を新たな出発点に、世界的に冷暖房の常識を覆すような事業展開をしていきたいと思います。

今回取材を受けて改めて、自分の使命の重要さに気づきました。志免町は石炭というエネルギーの町でしたが、これからは新しいエネルギーシステムの時代。ボタ山と志免鉱業所竪坑櫓に囲まれてインタビューを受けたことによって、この新しい時代を担っていくのだという使命感が湧き出てきました。
インタビュー中、自分の特許技術などに対する大輔氏の肯定的な「そうなのですか、なぜですか?それはすごいですね!」などの言葉に乗せられてしまい、普段しゃべらないことまで思わず正直に話してしまいました。機関銃のように話す印象が強烈ですが、インタビューの時の攻める聞き方には驚きました。急に弟ができたような気がしました。

KFT株式会社 代表取締役 二枝 たかはる


唯一無二は、二枝さんにぴったりの言葉です。石に魅了されてから、一貫して人のため、地球のために製品開発してきた姿勢をリスペクトします。ピンチをチャンスにする力や固定概念にとらわれない柔軟な発想が光冷暖システムの開発に繋がり、1,000件達成となりました。これからエアコン市場のゲームチェンジャーになる存在だと思います。
建築家の隈研吾先生が設計された、KFT株式会社の本部ビル完成が楽しみです。光冷暖システムが世界でどこまで広がるのかワクワクします。最大のサポートをさせていただきます!

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2017年6月 志免鉱業所竪坑櫓にて  編集:「私の哲学」編集部 撮影:Sebastian Taguchi