インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第44回 小原 佳太 氏

2016年9月9日、世界に初挑戦する小原佳太氏。ロシアで行われる世界スーパーライト級王者エドゥアルド・トロヤノフスキー選手とのタイトルマッチを前に、その意気込みを伺いました。

Profile

44回 小原 佳太(おばら けいた)

プロボクサー
国際ボクシング連盟世界スーパーライト級3位
第37代日本スーパーライト級王者、第36代OPBF東洋太平洋スーパーライト級王者
1986年岩手県生まれ。高校からボクシングを始める。2004年全国高校総体でフェザー級3位。高校卒業後、東洋大学に進学。2006年、のじぎく兵庫国体成年ウェルター級優勝。2008年、チャレンジ!おおいた国体成年ウェルター級優勝。大学卒業後、1年間就職したのち、三迫ボクシングジムに入門する。
プロ戦績/18戦16勝(15KO)1敗1分
アマチュア戦績/70戦55勝15敗
※肩書などは、インタビュー実施当時(2016年6月)のものです。

攻めて倒す

国際ボクシング連盟(IBF)世界スーパーライト級王座決定戦が9月9日に決まりました。昨年11月に行われた挑戦者決定戦は、引き分けでした。自分の陣営が勝っていると思い込んでいて、無理に攻めなかったんです。攻めると相打ちをもらって倒れることもあるので、あえてリスクを冒さないようにしました。しかし、結果は引き分け。勝ったと思っていたのに引き分けてしまい、本当に悔しかったです。取らなければいけない試合は攻めて倒して勝ってきましたが、パンチをもらわない試合運びを意識し始めるようになってから、リスクを背負わないようにするボクシングスタイルになっていました。今回の王者への挑戦は、絶対に勝たなければならない試合。攻めて倒すと決めています。

日本人の審判はフェアなので、日本での試合でも外国人選手が優勢であればポイントを付けますが、ロシアではホームの判定に結構ひいきがあると聞いています。勝っているのに負けの判定をされないように、倒されてもいいくらいの気持ちで挑みます。対戦相手のエドゥアルド・トロヤノフスキー選手は過去の試合映像を見ると粗々しく、想像していなかった動きもしているので、対策をしっかりしなくてはと気を引き締めています。

*参考
小原佳太選手は、IBF世界スーパーライト級9位のウォルター・カスティージョ選手とIBF世界スーパーライト級王座挑戦者決定戦で対戦し引き分けた。IBFはカスティージョ選手との再試合を認めたが、カスティージョ陣営が辞退を申し出たため、IBFは小原選手に対し、挑戦者決定戦をスキップして王者に挑戦することを認めた。

友人に誘われて

ボクシングは好きで始めたわけではないんです。中学生のとき、バドミントン部でダブルスを組んでいた友人が、テレビ番組の『ガチンコファイトクラブ』を観て感化され、「おまえも一緒にやらないか」と誘われたのがきっかけです。それから、友だちとチームワークで練習するのが楽しくて今に至っています。一度ボクシングに区切りをつけ、大学卒業後に就職しました。東京で何かしらやり切ってから地元・岩手に帰ろうと思っていたのに、配属されたのは千葉支社。1年間モヤモヤしながらいろいろ考えましたが、自分にできることはボクシングしかありませんでした。でも、ボクシングがすべてだとは思っていません。いつも通訳の方を頼ってばかりなので英語を勉強したいですし、他にも学びたいことはたくさんあります。1位になるといろいろな人に会えますよね。今はそのことを楽しんでいます。

アマチュアでボクシングを始めてから世界挑戦者決定戦に出るまでは、世界マッチには出ないで終わるんだろうと思っていました。だから、「世界チャンピオンになる」とは口に出さないようにしていました。思ってもいないことは言いたくないんですよ。ランキングに入っていないのに、「俺は世界チャンピオンになる」とアピールする人は好きではありません。僕はそういう人になりたくない。挑戦者決定戦の話が来るまで“世界”というイメージは持っていませんでしたが、勝てば世界チャンピオンになれる、ジムのバックアップと一緒に自力でいけるところまで来たと思ったとき、自分の中で「世界を取りに行きたい」という意識に変わりました。

積極的に情報収集

できるだけ体を大きくして当たり負けをなくすために、2年くらい前からウェイトトレーニングを始めました。総合格闘技のトレーナーと個人で契約して、理論から学んでいます。一般的にボクサーは、トレーニングに関する知識量が少ないと思います。K-1やキックボクシングなどの総合格闘技は、急成長した分あらゆる情報を積極的に取り入れていて、知識量が豊富です。ジムワークは週6日行っています。そのうちウェイトトレーニングと長距離ランニングをそれぞれ2日。トレーニング時間は、他の選手より少ない方だと思います。日曜日は完全に休みと決めていて、もう1日、体の疲労具合を見て休むようにしています。今年で30歳。以前よりもストレッチや準備運動を入念にして、怪我に気をつけています。

トレーニング以外にしていることは、本を良く読むこと。人と話すとき、相手に伝わりやすく話せるように文章能力を鍛えるためです。知識は頭に入れるだけでなく、表に出さないと身につかないですよね。話したり、文字にしたりすると安心できるので、ノートに達成したい目標を書き、そのためにやるべきことを思いついたらメモするようにしています。ノートの中に、世界チャンピオンという文字はありません。目の前の目標を一つひとつクリアしていった結果が世界チャンピオンだと思っています。世界チャンピオンを目標にしていたら、達成した後の自分の世界が広がっていかない。だから、チャンピオンになる前からチャンピオンとしての練習をしなければならないと考えています。

チャンピオンベルトを取る

僕が世界チャンピオンになったら、きっと周囲の人の夢を後押しできますし、その人たちの夢が叶うといつか自分にも返ってきて、人生が豊かになると思います。だから、世界チャンピオンになるしかないんです。最大の敵は自分。自分で決めたことなのに途中で折れてしまったら、試合相手に負けるなんて簡単に起こり得るでしょう。試合で負けることがあっても、それは時の運やたまたまということもあります。その度に一喜一憂する必要はなくて、自分が決めたトレーニング量に勝つこと、自分自身に負けないことが大事だと思います。折れてしまった自分って格好悪いじゃないですか。自分で決めたことは、しっかりやり遂げる。すべてをかけてチャンピオンベルトを持って帰ってきます!

杉山さんとはじめてお会いしたときに驚いたのは、流暢な英語の発音でした。海外で通用する会話力に圧倒され、これがビジネスマンなのだとインタビューを受けながら何もかも学ぼうと思いました。インタビュー以外にも私の世界挑戦がより良いものになるように協力いただき、その行動力に驚かされました。多くの場面で見かけるI can do it、表面だけの自信ではなく、自信を持って行動に移すI can do itを感じ、自分自身に足りないものを見つけました。その刺激を無駄にしないよう世界挑戦し、世界チャンピオンになります。I can do it. そして、自分の可能性を感じ、自分自身を信じます。 We can do it.

プロボクサー 小原 佳太


映画『ロッキー』を観てから強い男に憧れ、「いつかボクシングをやりたい」と思い続け、36歳の誕生日にワタナベボクシングジムに入会しました。ボクシングを始めたことで今回のインタビューが実現し、何事もチャレンジすると素敵な時間を作ることができるのだと再確認しました。実際にやってみると、ボクシングはスタミナと根気、毎回の繰り返しが必要なスポーツであることが良くわかります。
小原佳太選手は礼儀正しく素直で、応援したくなる青年です。そして、本当にボクシングをやっているのかと思うくらい、スイートなハートの持ち主です(笑)。しかし!インタビューの後にリングで受けたパンチは、まさに“獣”。ジャブが重く、ミットに当たった瞬間のフックはものすごい衝撃でした。拳と拳の戦い。9月9日のロシア戦を楽しみにしています。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2016年6月 三迫ボクシングジムにて  編集:楠田尚美  撮影:Sebastian Taguchi