インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第11回 島田 精一 氏

アメリカ、イタリア、メキシコと数多くの海外駐在経験を持ち、ビジネスマンとしてその手腕を国内外で発揮されてきた島田氏に、"グローバル"をキーワードにお話を伺いました。

Profile

11回 島田 精一(しまだ せいいち)

日本ユニシス株式会社特別顧問 | 前住宅金融支援機構理事長 | 元三井物産株式会社副社長 | 元日本ユニシス株式会社社長。
東京大学法学部卒業。ハーバード大学経営大学院(AMP)修了。大学卒業後、三井物産株式会社に入社。取締役情報産業本部長時代には、毎年数十億の赤字を出していた部署を、出社拒否になるほど苦しみつつも持ち前の明るさで軌道に乗せ、黒字化に成功する。2000年、同社代表取締役副社長CIO就任。2001年、日本ユニシス株式会社社長就任。4年間で「受け身」といわれていた企業カルチャーを「積極提案型」に変えた。その力量を買われ、2005年、住宅金融公庫総裁に就任。2007年から2011年3月まで、住宅金融支援機構理事長を務める。イタリア通としても知られ、2007年イタリア政府より「グランデ・ウッフィチャーレ勲章」を受章。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2011年10月)のものです。

帰属意識を持つことの大切さ

この30年ほどの間に、私たちが食べているもの、着ているものをはじめすべてがグローバルになり、日本国内だけでは何もできないという環境の変化が起きました。大企業はもとより、中小企業でも優秀な会社は既に海外に進出しており、デザイナーやミュージシャンといった個人で活躍している人も同様です。このような時代には、20代のうちに海外での滞在経験をし、グローバルに活躍できるスキルを身につける必要があると思います。なぜ、30代に入ってからでは遅いのか。脳が柔軟な若いうちの方が、言語を習得しやすいですし、文化や価値観の違いを理解し、受け入れることができるからです。私自身、10代の後半に行けば良かったと少し後悔しています。

海外で活躍するには、単に外国語が話せれば良いわけではありません。自分の国の言葉である日本語を正しく話し、書くことができ、日本の歴史や文化を理解していることが大切です。つまり、日本人としてのアイデンティティーを持っていること。帰属意識を持たないと、人間は根無し草のようになってしまいます。自分自身の拠り所をしっかり持った上で考え方の違う他国の人たちと議論し、一緒に新しいものを生み出していける人がグローバルな人材といえるでしょう。

第三の国難を迎えている日本

日本はこれから、ますます少子高齢化が進んでいきます。今、人口は1億2,600万人ですが、このままだと2050年には9,500万人(出生率が1.3人)、数百年後には1人になるという計算があります。海外では、人口減少の対策として移民を受け入れてきました。移民受け入れが良いかどうか議論の必要はありますが、私はやるべきだと考えています。様々な社会的問題があるにせよ、人口が9,500万人や6,000万人にならないための少子高齢化対策を、もっときちんと整備しなければなりません。40年前、日本と同じような状態だったフランスでは、徹底した少子化対策を行った結果、出生率が2になり今も維持しています。

人口が減ると、就職口も減っていきます。そうなると、仕事を求めて海外へ行く、労働者を海外に頼るといった状況にならざるを得ません。子供は成人するまで20年かかりますから、今、出生率が急に2になったとしても、その効果が表れるのは20年後、30年後です。第一の国難である明治維新、戦後という第二の国難を乗り越えてきた日本は今、少子高齢化に加え、東日本大震災、原子力発電問題と第三の国難、まさに国が大きく変わっていかなければならない正念場を迎えています。

留学はプラスにこそなれ、マイナスにはなり得ない

これまでずっと続いてきた、終身雇用に年功序列、新卒採用といった日本独特の雇用体制も、近年、終身雇用・年功序列は崩れたといってよいでしょう。しかし、新卒採用を重視する傾向は続いています。ヨーロッパやアメリカでは、一生1つの会社に行く人もいますが、平均3回か4回会社を変わります。日本も少しずつ変わってはきており、私が以前いた商社では20代・30代の人が途中退職し、事業を興して成功させていたり、会社側も中途採用を実施したりするようになりました。そんな中、留学経験はプラスにこそなれ、就職の時期を逃してしまうなどおかしなことです。また、日本だけ学校が4月開始というのもグローバル時代にそぐわない。経団連はようやく9月採用の検討を始め、すでに慶應大学では一部導入されている9月入学を、東京大学でも始める動きがあります。3年くらいの就職経験がないとビジネス・スクールに入学できないハーバード大学院のように、日本でも企業と大学の関係は急速に変わっていくと思いますし、変わらなければならないと思います。

20代の社会人に伝えたいこと

仕事において大切なのは、「前向きに明るく、逃げず、知ったかぶりせず」。この姿勢で取り組むことです。仕事は失敗の連続。壁にぶつかることも、努力が報われないことも必ずある。失敗を繰り返すことは将来必ずプラスになり、成長するために必要なことです。誰でも失敗はしたくありませんが、20代はそれが許される時期。明るく逃げずにチャレンジできるかどうかで、その先の自分が決まってしまうのです。

多くの人は、失敗すると挫折してしまいます。ですから、そこで挫折しない心を持つことがものすごく大事です。挫折して心が折れないために、相談相手や愚痴を聞いてくれる友人を持つ、あるいは読書や音楽を聴くといった趣味を持ちましょう。私は音楽や落語、読書、ビールを飲みながら若い人と話をするなど、たくさん趣味を持っています。体を動かすこともいいことです。運動すると、内側から前向きな気持ちがわき上がってきます。

自分からコミュニケーションをとる

若い人にはよく、「年上の人の誘いは断るな、上司には自分から積極的に話しかけろ」と言います。自分よりも経験の多い人、自分がしなかったことを経験している人とのコミュニケーションの中には、いろいろな刺激とヒントがあり自分の成長につながります。同じようなレベル、考え方の人といくら話をしても進歩はありません。コミュニケーションはラテン語の”コムーン”が語源ですが、”共有化する”というような意味があります。インターネットが普及し、メールがコミュニケーションの主流になっていますが、そればかりでは良くありません。直接話をして知識や時間を共有する。自分より優れた人に対して常に気持ちを開き、話を聞くチャンスを作ることが大切です。

社会はいろいろな人との繋がりによって成り立っており、自分と密接な関係にあります。自分から行動することで人間関係が構築され、周囲の人や社会が動き、道が開けていくのです。

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エネルギッシュな島田さんのパワーに圧倒され、インタビュー中、話に切り込むことができませんでした。仕事において大切である、「前向きに明るく、逃げず、知ったかぶりせず」を心に留め邁進していきます。人生やビジネスの先輩が、ロールモデルとして身近にいるのは本当に嬉しいことです。私も島田さんのように人間的に魅力があり、パワフルで素直な大人であり続けたいと思いました。そして次は、自分が学んだ多くのことを後輩たちに伝えていきたいと思います。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2011年10月 日本ユニシス株式会社にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝