インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第78回 福山 克義 氏

発明家であり、釣具会社社長である福山克義氏。英語は得意ではないと言いながら、趣味と仕事を兼ねて気軽に海外へ出かけて行き、面白い釣具を見つけて海外に会社までつくる自由人。氏のひらめきの元を辿りました。

Profile

78回 福山 克義(ふくやま かつよし)

ガードナー株式会社 代表取締役
1959年福岡県生まれ。空手ばかりの青春時代で学業成績は最下位を貫き通し、先生から見下された学生生活を送る。大学卒業後、ハワイ大学の空手指導員として渡米。アメリカでビジネスを起こすも、失敗し帰国。プロ空手家、エレベーター技師、梱包資材開発会社の営業を経験。その後、釣具メーカー株式会社ギアラボを設立し、アメリカにもGear-Lab USAを設立する。モノづくりが大好きで特許出願は48件。現在は“世の中のためになる発明家”として介護用品の開発に取り組み続けている。

“やってみる”という土台

中学3年生のときにカツアゲされて、「強くなりたい」と思って始めた空手にのめり込みました。同じ道場に指導員としてロサンゼルスに行った人がいて、「僕も絶対あの人みたいになりたい」と思ったんです。大学に通いながら、空手の全日本選手権などに出場していました。最高で2位になったこともあります。ずっと空手のことばかり考えていたから、就職活動はしませんでした。 日々、指導員として海外に行きたいと周囲に言っていたこともあってか、空手協会から、「ハワイに行かないか」とオファーがあり、ハワイ大学の空手の非常勤講師として渡米できることになったんです。夢が一つ叶うことになったわけですが、英語がまったくできなかったので、ものすごい冒険でした。でも、できない理由を探すより、一歩踏み出した方が人生は開けることを実感した貴重な経験でした。

生きていくために湧いてくるアイディア

空手指導員として3年間働きましたが、最後の1年は車を平行輸入するアルバイトをしていました。そこで事件が発生。日本に送ったカマロが乗り逃げされてしまい、入金されなくて。友人にお金を借りたもののすぐに底をつき、スーパーマーケットの試食コーナーでご飯を食べて警備員に蹴られたこともありました。若かった自分は、「人生最低最悪。どん底だ」という思いが湧きました。人って不思議なのですが、落ちるところまで落ちると、笑いが込み上げてくるんです。思いっきり笑うと吹っ切れて、自分を客観的に見られるようになり、そこから生き抜く方法を俯瞰して考えるようになることが分かった出来事でした。 ハワイから戻ると、12年間サラリーマンとして梱包資材を開発する会社で働きました。その頃から、会社の仕事の中でいろいろな発明をして特許出願するようになりました。独立後は、上手く行かずに借金したこともありましたが、アイデアがひらめいて新商品を開発したり、稼ぎ方を考えたりして返済、補填することができました。人には本来生き抜く能力がありますから、必要に応じてその能力を発揮するのだと思います。僕の場合はそれが発明だったんです。

困った人の助けになるものを生み出す

5年前、父がガンで亡くなったのですが、長い入院生活を強いられている中で一番困っていたのは、髪の毛が洗えないことでした。父には病気そのものと同じくらい苦痛のようで、父を思い出す度に、もっと洗ってあげられれば良かったと心が痛み、それが“ルームシャンプー”開発のきっかけになりました。最初の1年間は失敗の連続で、排水タンクが減圧して爆発したり、シャワーヘッドから水が溢れ出したりと、事務所の中は毎日水浸しでした。洗髪は最高で一日35回やったこともあり、絶えず風邪をひくし、社員全員の頭皮は不健康な状態に。家族からは、また怪しいことをやっていると白い目で見られていました。徐々に製品が進化し、機能的に問題なくなったので試してみると、理容師歴50年の方には、「想像を超える気持ち良さだ!」という評価を、別の理容師の方からは、「これは汚れを垂直に引き上げるデトックス効果がある!」という嬉しいコメントをいただきました。しかし、そこから製品化への道のりは遠かった。毎日が喜怒哀楽のエキサイティングな1年半でした。 ようやく出来上がった、3Dプリンターで製作した試作品を福祉の展示会に出展すると、全国のメディアや福祉関係から問い合わせが殺到しました。必要としている人たちが大勢いることを実感し、製品化を急いだのですが、問題は資金。銀行を説き伏せている自分を俯瞰しながら、「世の中のために熱弁をふるっている自分は、なかなか良いじゃないか」と思いました。無事融資が通って製造に没頭する環境が整ったときは、神がかっているなと感じましたね。 “ルームシャンプー”は、シャワーヘッドから水を吹き出して、そのまま汚水を吸い込み、一滴の水もこぼれない不思議な洗髪機です。部屋の中で、寝たままでも座ったままでもたったの5分で洗髪でき、スポンジを付ければ体も洗えます。このシンプルで安価な製品を是非、不便している世界中の方々に使っていただきたいと思います。

仕事は好きな人とする

たまたま釣りに行き、「この世界は私が活躍できる!」という直感からモノづくりに没頭し、気づくと世の中にない釣具を開発するGear-Labを立ち上げていました。最初は、ひと月に3つも4つも新製品を出し、さほど売れなかったのですが、とりあえず面白いサイトづくりを最優先に、自分が好きなことを存分に楽しみながらとことん妄想し追求していたら、いつの間にか19年も経っていました。その間に、モノづくりに必要な“秀逸なネットワーク”が構築されていたんです。 僕は、仕事相手とは必ず酒を飲むことにしています。そこには確固たる理由があります。一緒に酒を飲むと、相手のことがかなり分かるんです。その上で、好きだと思える人と仕事をすることが、成功する唯一の条件だと思います。どんな仕事でも、一人では成立しません。必ず、人の力を借りる場面が出てきます。そのようなとき、本当に信頼できる人間関係ができていなければ、事業はどこかで頓挫してしまう。だからこそ、飲みに行ける相手、好きな相手をパートナーに選ぶ。それが何より重要だと思っています。

仕事はどれも発明と同じ

会社のミッションは、介護用品の開発にしろ、釣具にしろ“うれしい、喜び、気持ちいいを創る”という簡単なものです。そのためには、“スピード”が必要だと思っています。時代を感じ取るスピード、商品を開発し、製品化するスピードと、世に広めるスピード。それがあれば世界で勝負できます。 これまでに48件の特許を出願していますが、どれも発明の大元は世の中のためになるかどうか。その視点で生きているだけでひらめきが湧いてきて、発明したくなります。今は“世の中のためになる発明家”であり続けたいと思いながら、日々取り組んでいます。 仕事は、僕がやっている開発や発明と同じで、いくらでも生み出していけるもの。それを必要としている人がいれば、必ず結果に結びつきます。好きな人たちと、自分が打ち込めるものを生み出すことこそ、僕の成功哲学。仕事は人生最大の大道楽です。これからも、好きなことだけにのめり込み続けたいと思います。

『私の哲学』は、元気な人をもっと元気にし、日本全体をも元気にしていくような素晴らしい企画です。その編集長の杉山大輔という男、とにかくパワーがある。行動力がある。そして、自分の主張が強い。しかし、人を惹きつける不思議な爽やかさが彼の魅力だと思います。たぶん私を含め、彼に元気をもらっている人は多いでしょう。 私は、“行動する人”が人生で成功すると思っています。それは旅した距離にも比例すると。数年後の杉山大輔はいろんな人を絡めて大きなムーブメントを起こしているのは間違いないと感じています。彼の夢、想い、志は、また面白い起業をやっている気がします。何ともたのしい愉快。

ガードナー株式会社 代表取締役 福山克義


楽しいインタビューでした!色々な面白いものがある開発部屋でツーショット。ストームトルーパーのヘルメットを拝借(笑)。発明家である福山克義さんには、泥にまみれても、荒波の中でも突き抜けるエネルギーがあります。お父様が亡くなったことがきっかけで、やらなければならないスイッチが入ったルームシャンプーの開発。世の中にかける想いが違います。お話を伺いながら、何かを学んだら、実際に社会で自分の考え方や能力を試して、主観的な価値と客観的な価値のギャップを埋めていく必要があると思いました。 世の中に役立つ商材を開発する発明家として、これからも行動し続けていただきたいです。発明品を売るときはお任せください(笑)。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2018年2月 ガードナー株式会社にて  ライター:MARU  撮影:日高康智