インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第53回 大倉 忠司 氏

“280円均一の感動”をコンセプトに全国展開している焼鳥店、『鳥貴族』の代表取締役社長、大倉忠司氏。創業した会社を東証1部上場企業にまで成長させた氏に、ご自身が考える働き方、これからの目標についてお話しいただきました。

Profile

53回 大倉 忠司(おおくら ただし)

株式会社鳥貴族 代表取締役社長
1960年大阪府生まれ。調理師専門学校卒業。卒業後某ホテルに入社し、3年間ウエイターを務める。1982年、退社して焼鳥店に勤務。1985年、25歳のときに独立し、『鳥貴族』第一号店を東大阪市内にオープンする。1986年、株式会社イターナルサービス(現:株式会社鳥貴族)を設立、代表取締役社長に就任。2005年、東京進出。2014年ジャスダック、2015年東証2部、2016年東証1部上場。2017年5月末現在、541店舗(直営319店舗、TCC222店舗)。※ TCCは、 鳥貴族カムレードチェーンの略
※肩書などは、インタビュー実施当時(2017年5月)のものです。

焼鳥愛

『鳥貴族』は世界一の焼鳥屋を目指し、2千店舗を目標にしています。目標達成のためには、従来の居酒屋以上にインフラ的な存在にならなければ難しいと思っています。世の中では、一世を風靡したお店が後に衰退してしまうということが繰り返されています。我々の挑戦はそこです。インフラ的な存在になるために付加価値は作らないようにしています。凝った内装にしたり、個性的な接客をしたりといった演出はいずれ飽きられてしまいますから、飲食店のベーシックな部分を磨くことに注力しています。

その一つが、“串打ち”です。工場で一括して加工し冷凍したものを店舗に運ぶのではなく、各店舗で鶏肉を串に刺しています。これは、採算よりも美味しい焼鳥を提供したいという“焼鳥愛”であり、“誇り”でもあります。社員が、誇りを持って自分とこの焼鳥をお客様に売れなかったら不幸ですよね。価格が安い分、“安かろうまずかろう”やったら社員は幸せになれません。きれいごとやなく、利益優先でもなく、お客様の立場になって考えることを優先しています。

楽しく働く

悩みはありません。絶えず課題はありますが、取り組んでいれば解決します。起業当初から全国チェーン展開を目指していたので、思うように展開できない時期は、どうしたらいいのかと悩みました。事業が常に100%上手く進むことはありません。上手くいかないことがあると、今は成長できるチャンスだと考えます。そうして長年やっているうちに、すべてのことを楽しめるようになりました。楽しく経営し、楽しく生きたい。スタッフにも楽しく仕事してもらいたいですね。店舗へ視察に行くと、どこを見ているのかと聞かれますが、それはスタッフの表情です。スタッフが笑顔だと、お客様も絶対笑顔になりますから、楽しく働いてくれているかどうかが一番大切です。スタッフがしんどそうだったり、面白くなさそうだったりしたら会社の責任だと考えます。

潜在能力も含めて力を存分に発揮できるのは、気持ち良く、楽しく働ける環境だと思います。ですから、感情的になって怒ることはしません。これには、野球少年だった頃の経験が影響しています。仲間がエラーをすると怒る同級生がいて、みんなだんだん楽しくプレーできなくなってしまいました。また、大阪府大会に出場したときのチームの顧問はスパルタ指導で、みんなビビリながらプレーするから余計にエラーをしますし、私自身、好きだった野球が面白くなくなりました。ホテル勤務時代にも、厳しい上司にいつ怒られるかと、スタッフはみんなビクビクしながら仕事をしている状況でした。厳しいのは良いのですが、楽しくなかったら続かないし、仕事を好きになれません。このとき自分が上に立つ立場になったら、スタッフには楽しく仕事をしてもらおうと心に決めました。でも、結果は求めますよ。大きな目標の楽しいプレッシャーです(笑)。組織としては数字のことを言う立場の人は必要ですが、私は利益についてはあまり言わないようにしています。目的は社会貢献なので、利益はあくまでもそのための手段だと考えています。

永続するために

32年前に創業した頃は、人よりも働くことを幹部たちに求めました。人よりも働くことで自分自身が成長でき、我々が成功する条件だと。しかし、短距離走的な「頑張れ、頑張れ!」では、永続することはできません。目標にしていた上場が具体的に見えてきたとき、今のままの労働環境ではだめだと思いました。生産性の向上を考えると、長く働ける環境を作り、効率良く働くことが大事です。日本は個人主義ではないので、同僚が帰らないと自分も帰れないという風潮があります。専務から一度、「社長に休んでもらわないと、僕達も休めません」と言われました。そこで、まず私がきちんと休暇を取り、時間も短縮して働くようにしました。土日は必ず休みますし、働く時間が社員よりも増えないようにしています。

少しずつ労働環境を改善しているとき、ある役員が、「こんなぬるま湯の環境で人が育ちますか?」と言ったことがあったんですね。私は、「これはぬるま湯ではない。正規の労働時間内で効率良く働き、生産性を高めてもろたらいいんだ」と話しました。決められた時間の中で、それぞれが自己成長、自己啓発をしていったら良いと思います。私は新しくできた時間を、いろいろな人と会い、様々な情報を得ることに使っています。

目標を持ち続ける人生

「焼鳥一本でやっていく」。そう決めたのは、一つのことだけを追いかけるのが自分の性格に合っているからです。例えば、車が好きで何台か所有したり、数年で乗り替えたりする方がいますが、私は一台の車をずっと可愛がるタイプです。いろいろな企業を見ていると、景気が良くなって利益が上がると多角経営に乗り出したり、投資したりして、景気が悪くなって本業の業績が悪くなると、本業回帰だと言って元に戻るということを繰り返しています。それよりも、自信のある本業一本で通した方が効率良いのではないかと思います。飲食業界に入ったきっかけは、初めてのアルバイトでした。高校2年、3年とビアガーデンでアルバイトをして、将来この業界で働けたら幸せな人生を送れる、この道でやっていこうと決めました。こうなると、他には目を向けなくなるのが私の性格です。同級生5人と一緒に働きましたが、飲食業界に入ったのは私だけでした。

今、欧米への進出を考えています。中国の外食市場は大きいですが、アジア全体では人口のわりに外食市場の規模は小さいです。弊社の場合、チェーン店として出店してこそ、その国の方々に貢献できると考えています。専門店は、ある程度成熟した社会でなければ受け入れられません。インフラが整備された土地でチェーン展開する方が我々の良さ、強みが出せますし、地元に貢献できます。そうなると、やはり先進国になります。日本では日本産の食材を、海外ではその土地の食材を使うのが『鳥貴族』の基本です。出店したその国に貢献しなければ、存続することはできないと思っています。

2千店舗の前に、2021年7月期、東京オリンピック・パラリンピックが開催される事業年度中までに1千店舗という目標を掲げています。目指すものがあり続けると、幸せやないですか。目標達成して満足した時点で終わってしまうのは寂しいことです。大きな目標があると、常にそれに向かって突き進むことができます。目指すものを追いかけながら死ねたら最高ですね。

杉山さんの初対面の印象は、「太陽のような人」でした。明るい雰囲気、輝く瞳。その場がパッと明るくなりました。
『私の哲学』の理念は、人を繋いでいくことだと聞き、まさしく杉山さんだからこそやるべきものだと思いました。これからも人材ネットワークを拡げ、素晴らしい世の中にしていってほしいと思います。
頑張ってください!

株式会社鳥貴族 代表取締役社長 大倉 忠司


僕は焼鳥が大好きです。焼鳥好きと行動する勇気によって、大倉忠司社長とお目にかかることができました。「焼鳥で世の中を明るくしたい」という永遠の理念のもと、全店舗に「うぬぼれ中」の看板を掲げ、現在541店舗(2017年5月末)を展開している鳥貴族は、100店舗達成に23年かかりましたが、200店舗まではたったの3年。今では、ほぼ一週間に1店舗のペースで出店しているそうです。お話を聞きながら、何事も土台を作ったり仕組み化したりするためには、やり通す気持ちと継続性の2つが必要だと再認識しました。大倉忠司社長の“楽しいプレッシャー”を参考にどんどん行動していきたいと思います。
『私の哲学』では10年間で50名の方々との、僕の成長に欠かすことのできない素晴らしい出会いがありました。志高く1,000名を目標に、これからもとんがって活躍されている方々に直撃依頼し、質の高いインタビューコンテンツを発信していきます。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2017年5月 株式会社鳥貴族 東京事務所にて  編集:楠田尚美 撮影:Sebastian Taguchi