インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第58回 藤堂 和子 氏

会員制クラブ“ロイヤルボックス”の名が全国に届くクラブに育て上げた、藤堂和子氏。第58回は、クラブ経営にとどまらず、執筆、講演会など幅広く活動されている氏にご登場いただきました。

Profile

58回 藤堂 和子(とうどう かずこ)

「ロイヤルボックス」「リンドバーグ」ママ・経営者 | 『LB中洲通信』編集長
1946年福岡県生まれ。博多・中洲の会員制クラブ「ロイヤルボックス」、航空スタンドバー「リンドバーグ」のママ・経営者。1971年、老舗の航空スタンドバー「リンドバーグ」を先代から受け継ぐ。1990年代に赤字続きの高級クラブ「ロイヤルボックス」の経営を引き受け、中洲はもとよりその名が全国へと伝わる店に成長させる。大人の社交場としての雰囲気が漂う店で、財界、角界、芸能界はもとより、海外からのお客様もお迎えする。“ジャンケンママ”の異名を持つほどジャンケンの名手として知られ、カウンター越しのママとお客様のジャンケン勝負は取材を受けるほどの名物に。また、『LB中洲通信』の編集長として雑誌を発行し、2010年秋に、中洲通信創刊30周年と『親子三代ママ稼業』刊行記念パーティーを帝国ホテル東京にて開催。全国から財界人のトップ、有名クリエーター、作家、タレントなど、延べ2,000名が来場した。現在、毎週水曜日、KBC九州朝日放送ラジオ番組『藤堂和子の女性塾』に塾長として出演しているほか、中洲の発展に寄与するべく、コラム執筆、講演会など多方面で活動している。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2017年6月)のものです。

有言実行

早いもので、水商売を始めて今年で47年になります。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終わると50年。ここまで続けて来られたのも、「やります」と口に出していたからでしょうね。20歳のとき、義姉の店“リンドバーグ”を手伝い始めました。最初は、お店に出るのが億劫だったのですが、先輩に「美しい人は黙っていても良いけれど、ほとんどの人はお客様に好かれて初めてご飯が食べられる」のだと言われました。その時、「そこまで言われたら、たくさんのお客様に好かれちゃる」と、持ち前の負けん気に火が付き、多くのお客様に、私を好きになってもらうための努力を惜しみませんでした。それから、4年後“リンドバーグ”を引き継ぐことに。

私は有言実行派。言わないと動かないの。言わないとやらなくても良くなってしまうし、「やる」と言い続けていて結果何もできなかったら、「なんや、お前。口ばっかりやないか!」と怒られたり呆れられたりしてしまいます。私は、それが嫌なんです。

同じく、「やる」と口に出して始めたのが『中洲通信』です。中洲の文化を発信する月一回刊行の情報誌として創刊し、編集長を30年務めました。最初はとても大変でした。“3号雑誌”という言葉もあるくらい、継続することは始めるとき以上に大変なんです。お店に来ていた新聞社の方々と「もし中洲通信が30年続かなかったら、何でもする。その代わり続いたらみんな坊主になりなさいよ」と本気で約束しました。2011年に『中洲通信』は30周年を迎え、当時40代だった新聞社の方々は、もうみんな70代になっていて、坊主にしてやろう!と思っても、「もう俺たち禿げとる」なんてことになってしまったわけです(笑)。

人と出会い、繋がっていく

人と会って話をすることは、本やインターネットから情報収集するよりも一番の勉強になります。直接会っていろいろな話を聞いて、新しい知識を得る。その面白さや驚きを今度は私が誰かに話し伝えることが自分自身の勉強になり成長できます。人に何かを伝える伝道師なものかもしれませんね。

私は誰よりも多くの人と会っていると思います。一日当たり少ないときでも30人、多いときには100人を超えます。会社勤めや部署によっては、一日に10人程度、初めての人に会うのは月に一度ということもあるでしょう。水商売をしていて楽しいのは、多くの人に出会えること。中には私の経験をもってしてもかみ合わないことがあります。そんな時は店に数多く居る女性たちに任せます。ママだからといって私がすべて先頭することはありません。合う、合わないは自分が選択するのではなくて、相手が選択すること。自然に任せるのが一番です。

お客様同士を紹介するのも同じ。ビジネス上、互いに上手くいきそうだと思って、「あの人と会ってみたら」と薦めても、初めは「なんで俺がそいつと会わないといけないのか」なんて言われることもあります。「勘がはずれたかな?」と思ってもしばらくすると、上手くいっていることもあるから不思議。人と人とを繋げてあげて、そこで互いに儲ったら、また、「うちに飲みに来て」とお願いしています。本当にそれだけで良いんです。見返りは求めません。

水商売のサラブレッド

小学生の頃は、まだ戦争の爪痕がくっきりと残っている状況でした。幸いにも私は学校に行くことができましたが、集団就職列車に乗って工場へ働きに行かされる子も多勢いました。それに比べ今の大学生の多くは親のお金で大学へ通っているでしょう。アルバイト代は、自分の遊びにだけ使っているのがほとんどなのでは?でも、私たち世代から見ると、今の人は“箱入り”だと感じるのです。だからといって、昔の人と比べてしっかりしていないというのは間違っているかもしれません。自力で何かをしている人や道を切り開いている人と、親からの仕送りでやりたいことを自由に選択三昧、学校に行った人とでは、勉強や取り組みに対するやる気が違うと思います。苦しい時代を過ごしてきた人の方が、自分の力で一生懸命やり遂げようとする力があると思うのは私だけじゃないんじゃないかな。

私はこれまで商売で困った思いをしたことはありません。それはきっと、欲を持たなかったからでしょう。苦労はしたし借金もしたけれど、自分ができる範囲で無理をせずに少しずつ大きくしてきました。そんな自分ことを“水商売のサラブレッド”と呼んでいます。

大切なのは、“人”

71歳になった今、新しく何かにチャレンジしたいと思うことはありません。ただ、飲める人や、機会が減ったと言われる時代ですから、気楽に入れて楽しめるお店を作りたいと思っています。ラウンジの“リンドバーグ”と会員制クラブの“ロイヤルボックス”は価格でお店を分けているので、“リンドバーグ”で育った若い人が、成長したら“ロイヤルボックス”へと上がってきてほしいのです。私自身もお店を持ってから少しずつステップアップし、変わり続けてきました。同じ形で居続けることが好きではないんです。お客様も年を重ねていきますから、24歳で始めたお店の形のままでは、みなさんとマッチしなくなってしまいますよね。“リンドバーグ”からスタートした人も、他のお店を経て、また帰って来られることもあります。「当時は接待で使っていたけれど、今は一人で飲みたい」という方のために、5坪ほどの小さいお店も出しています。単に変わるだけではなく、進化し続けることは大切ですね。

私は何か形あるものを売っているわけではありません。物ではないものを売るのが一番難しい。車だったら車を、ウイスキーだったらウイスキーを売ればいいけれど、形のないものを売って、「あのお店に行こう」と思わせるものは何かと言ったら、“人”です。水商売の世界において、最も大切なのは“人”そのものなんです。

とても忙しい梅雨前のある日、家族ぐるみでお付き合いのあるお客様が珍しいタイプの方を伴ってご来店されました。
30代だという彼は、『頭角をあらわす男 70の流儀』を読み、「じゃんけん」には自信があるので勝負したい、とのオファー。物怖じゼロのノリの良さと、強い目力、相手の出方を待たずに自分を売り込むガッツ。それなのに、クレバーで感じの良さが全面に出ている、日本人にはいないタイプでした。さすがに最初は驚きましたが、興味のある相手に対して“前のめり”な感じも心地よく、私の若い頃を思わせるシンクロ感で“大ちゃん”がかわいく思えました。
底抜けの明るさの中に、きっと数々の荒波を乗り越えてきたのでしょう。初めて会った日から対談までのスピード感、こだわりや主張も、人の気持ちをつかむ技になっているって素晴らしい。彼のような日本人が大勢いたら、これからの日本も国際社会に負けない国になるんじゃないかな、と彼と接して心からそう思いました。・・・大ちゃんみたいな人ばっかりだと困るかな(笑)。頑張れ!大ちゃん!!

「ロイヤルボックス」「リンドバーグ」経営者 藤堂 和子


藤堂和子ママにお目にかかったのは、昨年初めて福岡に到着してから2時間後のことでした。目的地へ移動中知人に、「じゃんけんママを知っているか?」と聞かれ、ママの著書『頭角をあらわす男 70の流儀』を読んでいた僕は、「会ってみたいです!」と即答し、そのままロイヤルボックスへ。
藤堂ママが30年続けてきた『中洲通信』のエピソードの数々を読み、情報誌を続ける苦労や楽しさなどを知りました。「お金は使えば増えていく。たとえ、ビルが建っても人はついてこんよ」。人の繋がりを大切にする姿勢が、今の藤堂ママの絶対的な存在感を作っていると肌で感じました。経験値に裏打ちされた、先を見通すテンポ良いお話に魅了され、お姫様抱っこをしたいと感じ、実行させていただきました。もちろんジャンケン勝負もさせていただきましたが、まったく勝てませんでした(笑)。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2017年6月 会員制クラブ“ロイヤルボックス”にて  編集:「私の哲学」編集部  撮影:日高康智